●小話(街路樹)

街路樹


街路樹であたらしく植樹されてきたまだ幼い木が
古顔の樹に話しかけました
滅多に口を開かぬ樹木こそが樹木なのであって
まだその幼い木は自分が樹木としてうまれてきたことに
気づいていないのかもしれません

幼木は隣の木に言いました。「いろんなものが動いていますね、色もあって」
古顔の木は答えました
「だからどうしたというんだい?」
「毎日がこうだと楽しいですね」
「楽しい?」と、古顔はあきれたように幼木を見下ろして言いました
すると幼木はこう言いました
「だってぼくらは動けないじゃないですか、自由に
 動き回れないぶん、目の前で動くものを見ていたいじゃないですか」
 
 ほう・・!と古顔はいくぶん安心したような顔をしました
その幼木も、自分が樹木としてうまれてきた運命であることを
きちんと知っていると思えたからです

そのとき
「ははは・・」と別の樹木が静かに笑いました
それにつられてまた他の樹木らも少し笑いました
街路樹のあいだにしばし笑いがおこりました
幼木と古顔は黙り込んでしまいました

広まった笑いがおさまると、また全体が
静かな街路樹にもどりました

往来では今日も色んなものが大きな音をたて
めまぐるしく街路樹の脇を走り抜けていきます
 
                  (おわり)